先月、今月と武蔵御嶽神社にお伺いした。
そして、オオカミの護符も頂戴して、その霊験に改めて感謝していた時に、出会った本がこの『オオカミの護符 (新潮文庫)』という本だった。オオカミの護符についての話を知りたかったので読んだ本だったけれども、それ以外にも、自分の仕事というものについて考えさせられた良書だった。
この本は、著者が地元の小学校の特別授業の日に、こどもたちに向けて書いた手紙から始まっている。
世の中には大切で必要であるにもかかわらず、まだ仕事になっていないことがたくさんあります。自分の中に『好きで好きでたまらないこと』、『ずっと気になっている大切なこと』がある人は、自分で『仕事』を作っていくきっかけになるかもしれません。あるいは『自分は人と違ってちょっと恥ずかしい』とコンプレックスに思うことがある人は、自分でなければできないことを掘りあてる近道を手に入れているかもしれません。
~オオカミの護符 (新潮文庫 より引用
著者は川崎市宮前区土橋生まれ。
宮前区といえば、宮崎台や鷺沼といった田園都市線の高級住宅街、と言ったイメージがある場所だったりする。そしてこの場所は昔は50世帯の村だったけれども、それが東京オリンピックを境に開発が進み、7000世帯が住む街へと変貌を遂げたというところで。
農家であった著者の実家にある、古い土蔵で見かけたオオカミの護符に惹かれて、謎を追うことから始まった旅を著したもので、もともとは著者が一人でハンディカムで映像として記録し始めたことがきっかけで、協力する人々が集まり、やがて映画化され、そして、その映画が書籍化されたというのが、この本なのだ。
この本で一番感銘を受けたのが、仕事について記述されているこの部分だった。
地元土橋では、ナラやクヌギなど薪にする木を「べーら」といい、それを生やした山を「べーら山」と呼んだ。煮炊きのために薪をとり、堆肥にする落ち葉を拾うのはもちろん、清らかな水を恵んでくれる命の山であった。そこには神々の棲む祠が祀られ、人々の祈る姿があった。
神々は、どこにでも祀られていたわけではない。土橋の百姓に経済的な恩恵をもたらした「竹藪」に神々を祀る祠はない。それでは、なぜ「べーら山」に祠が祀られてきたのだろう。
これを解くカギとして、哲学者の内山節さんが語る「稼ぎ」と「仕事」の話が脳裏に浮かんだ。百姓を志して山の村に移り住んだ内山さんは、村の暮らしに触れるうちにあることに気付いた。村では労働を「稼ぎ」と「仕事」とに使い分けているということに。「稼ぎ」とは、生活に必要な現金を得るための労働であり、他にもっと良い収入が得られれば、ただちに乗り替えても構わない。それ対し「仕事」とは、世代を越えて暮らしを永続的につないでいくためのもの。
~中略~
土橋の「竹藪」は、換金作物を得るための「稼ぎ」の場であり、一方「べーら山」は、永続的に暮らしを成り立たせるための「仕事」の場といえる。つまり、世代を越えて守り続ける「仕事」の場に、神は祀られているのだ。
中でも、家事や子育ては最も大事な「仕事」であるから、各家には必ず神々の見守る場所があった。
かつては村ばかりではなく、町場の商家や職人、町人の家や仕事場にも「神々の居場所」が設けられていた。「仕事」とは、人の力のみでは成就しないものだと考えられていたからだろう。
人が自然に身をゆだね、互いの力をうまく引き出し合うところに思いがけない「はたらき」が生まれてくる。これが仕事の本領なのだと気づかせてくれる。「個性」とは、そこに匂い立つものに与えられるべき言葉ではないだろうか。
「稼ぎ」は人間関係の中で成立するが、「仕事」は人のみではなし得ない。
こう考えると、現代の「仕事」の概念は、ずいぶんと変わってしまったことに気づく。むしろ「仕事」だと思って行っている労働のほとんどは「稼ぎ」と言えるかも知れない。
人の力だけでなく、また自然の力だけでもない。その双方をつなぐ「はたらき」が宿る「仕事」に出会えたとき、人は感動を覚え、信頼を感じ、そこに人と人とのつながりが生まれるのではないだろうか。
感想
オオカミの護符に惹かれて、謎を追うことから始まった旅の行く手に待っていた、著者のこの壮大な物語は、便利な生活だけを追い求め続けて疲れている現代人にとって、何かをつかむヒントになるのかも知れません。
私個人としては、武蔵御嶽神社だけでなく、他にも「オオカミ=お犬さま」がお祀りされている神社にもお伺いしたくなりました。
余談ですが、「おおかみ」ってPCに入力して変換すると「大神」って出てくるんですよね。
Wikiで調べてみたら
オオカミを「大神」と当て字で表記していた地域も多く、アイヌではエゾオオカミを「大きな口の神(ホロケウカムイ)」「狩りをする神(オンルプシカムイ)」「ウォーと吠える神(ウォーセカムイ)」などと呼んでいた。
~Wikiより引用
なんて書かれていて、ますます興味が湧いている今日この頃なのでした。
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